朝、いつもより早めに起きたらリーバーさんとすれ違った。
目の下に隈を作っていて、ああ昨日も徹夜だったんだ、と考える。
「!そうだ、忘れっとこだった。室長がお前のこと呼んでたぞー」
リーバーさんはそれだけ残して、すたすたと食堂へ歩いて行った。
あたしは特に用事もなかったし、任務かな?などと考え室長室へと足を向けた。
最近任務に出向いてなかったから、もしかしたら長期間のものを言い渡されるかもしれない。
そしたら長い間ユウにも会えないじゃん、とぽつり。
「失礼しまーす」
いつも通り資料やら何やらが錯乱している部屋。
机の上に突っ放して寝てるコムイさん。本当に、何も変わらない。
数か月前、あたしは任務先で大怪我をした。
一緒に任務を遂行していたユウがあたしに応急処置をして、早急に病院に連れて行ってくれたらしい。
医者の話を聞けば、ユウは血相を変えて病院に入ってきたらしい。
それと、こうも聞いた。
少しでも遅れていたら、あたしの命は危なかったらしい。
だからユウには本当に感謝してる。
彼は冷血人間なんかじゃない。冷徹なんかじゃない。
それは、あたしがちゃんと知ってる。
でも、いつもあんなに冷静なユウが血相変えてあたしを心配してくれていたっていうのは、少し嬉しいかもしれない。
本人に言ったら頭を一発殴られそうだから、言わないけれど。
「リナリーが結婚するんだってさ、お兄さん」
考え事をしていたら、コムイさんを起こすのをすっかり忘れていた。
あたしは耳元で小さく囁いた。
これも相変わらず。このネタでしか起きない彼。
「っ〜〜あぁ、ごめんね!呼んだのに、寝ちゃってて」
状況を理解したのか、コムイさんは苦笑い。
あたしも苦笑いで返しておいた。
「それで、明後日から任務に出てもらいたいんだ」
急で悪いんだけど・・・と付け足す彼は、本当に教団の人間を心の底から心配しているんだと分かる。
あたしの大怪我もやっと治って、何度も他のエクソシスト達と特訓したりリハビリしたりしたから、もう大丈夫だとは思う。
でもやっぱり不安は募るばかり。
「分かりました、んで資料は?」
「・・・気を付けてね。一応簡単な任務を選んでおいたよ。
でも、もしかしたら長期になるかもしれない」
分厚い資料を渡され、あたしは室長室を出た。
自室に戻って目を通したけれど、割と簡単な任務。
でもさすが、分厚いだけあって長い時間かかりそうだ。
はぁ・・・と溜息をひとつついて、ベッドに落ちた。
良い機会じゃないか、と自分に言い聞かせるも、やっぱり不安。
長い間アクマとは戦っていないし、イノセンスだってちゃんと発動するかが心配。
何度も溜息をついていると、ドアの向こうで誰かがノックした。
「・・・開いてるよ」
あたしはそれだけ言うと、立ち上がって窓際に座った。
なんとなく、気配で分かってしまう。
「、」
「ユウ、こんな時間にどうしたの?」
まだ縛っていなくて、さらりさらりと揺れ動く綺麗な髪の毛。
窓際のあたしに近づいてくる足音。
「コムイから聞いた。任務行くんだろ?」
視線を感じる。あたしは窓を見たまま。
目を合わせることが、どうしてもできない。
「うん。長期になるかもってさ」
今、目を合わせてしまったら。
あたしの中できっと我慢していたものが崩れ落ちてしまう。
――――だって。
ユウの目は、あたしをいつも安心させる。
彼の温かさに触れると、皆からいつも”強いね”と言われてきたあたしはただの泣き虫になってしまう。
「・・・おい」
(こっち向け)
肩を掴まれ、正面にはユウの整った顔。
――――あぁ、泣いてしまう。
「・・・っユウ」
手を伸ばして、しがみついた。
白のセーターをギュッと握る。
ユウは何も言わずに、あたしを抱きしめてくれた。
「ってすげー強ぇくせに弱いよな」
鼻で笑われ、少し癇に障る。
「何それ、どういう意味よ!」
抱き合ったまま、二人で笑った。
ほら、あたしってユウがいるだけで安心できる。
さっきまでの死にそうな自分はどこかへ消えてった。
「・・・大丈夫だろ。どうせ笑って帰ってくんだろ」
そう言ってあたしの頭をゆっくり撫でてくれる。
「そう、だね。ちゃんと帰ってくるよ」
ゴーレムで連絡取ろうね、なんて笑って。
ユウがあたしの頬に残った涙の跡を指で拭いた。
その仕草にどきどきしていたら、いつの間にか唇に温かいものが触れていた。
「怪我なんかすんなよ・・・」
「・・・したら、またユウが駆けつけてくれるんでしょ?」
嬉しくて、安心したはずなのに、目から溢れる涙は止まらなかった。
あたしは何これ、と笑いながらユウとまた、キスをした。
(随分の不器用な泣き方)
(笑ってるのに)
(涙は止まらない)
END