「なあ、」彼が呼びかけると彼女は必ず振り向く。「なあに」
形だけは。
Do you love me?
「愛してる」「なに急に」
それだけで終わってしまう会話。訪れるのは沈黙。
周りは「素っ気ない」という。彼もそう思う。だが彼女は違うらしい。
「愛してる、お前が好きだ。愛してる」
「そう、で?」
「愛してる」
「分かったわよ、それは。他に用事ないの?」
「愛してる」
「もう聞き飽きたわ」
「お前は違うのか?」
「私貴方の事好きよ」
「その続きは?」
「女々しいこと聞くのね、貴方。なんだかキャラが崩れていくわ。お願いだからもうやめて」
「【愛してる】とは言ってくれねえんだな」
「言わなくても分かるでしょう? 嗚呼、この台詞貴方が言うと思ってた。まさか私が言うなんて。貴方そんな人だった?」
「言ってくれねえとわからない。それから俺は女々しくない」
「いいえ、言わなくても充分よ。それから貴方はとっても女の子みたいだって今分かった」
「充分じゃない。俺はエスパーじゃない。それにお前は投げやりだから――」
「投げやり? 私が? 失礼だけど私仕事はきちんとやってるわ。貴方みたいに短気になって大きな怪我もつくらないし」
「俺は短気じゃねえ。B型じゃないからな。怪我も関係ない。一々話を逸らすな」
「貴方B型じゃないの? 私てっきりBかと思ってた」
「AB型だ。刻むぞ」
「恋人に手を掛けるなんて。物騒な人」
「恋人の自覚があったんだな、お前に」
「貴方の方から言い寄って来たんじゃない。蕎麦ばかり食べて頭イッちゃった?」
「言い寄ってない。蕎麦の話も事あるごとに持ち込むな。お前が俺を愛してるのかと聞いてるんだ」
「あら、都合の良い事だけ忘れちゃうのね。貴方私をモノにしようと頑張ってたじゃない」
「お前は結局落ちただろ」
「【落ちた】なんて言い方気に入らないわ。まるで私が負けたみたい」
「だから昨日馬鹿兎に近づいたのか? 当てつけに」
「近づいたなんてそんな人聞きの悪いこと言わないでよ。ヒールが折れちゃったの。それを助けてくれただけ」
「甘い声を出してすり寄って誘ったのはお礼か?」
「誘ってないわ」
「嘘だな」
「ああもう、気まぐれだったのよ。いいでしょ、別にヤってないんだから」
「俺とも気まぐれで付き合ってるのか? そういうところが投げやりだっていうんだよ」
「貴方は特別よ。それに私恋愛に投げやりじゃないわ」
「いいや、投げやりだ。そして俺も特別じゃなく、その辺の男と一緒に見られてる」
「どうしてそんなこと言うの? どうしたら貴方が特別だって分かってもらえるかしら」
「お前が【好き】の続きを言ってくれたらな」
「貴方私の事を【お前】って、名前で呼んでくれないのね。自分の事は棚に上げてずるいわ」
「お前だって同じだろ」
「貴方が名前で呼んでくれたら私も名前で呼ぶわ」
「お前が【愛してる】と言ったらな」
「そんなに言ってほしいなら、上手におねだりしてみなさいよ。【俺のことユウって名前で呼んで。愛してるって目を見て言って。行
動を形だけにしないで。俺が居ないと駄目だ。だけが欲しい。がほかの奴と話してるとどうにもならないほど嫉妬す
る。俺だけのモノにしたい。だれの目にも留らせたくない。一生隔離させたいほど――」
「もういい」
「あら、拗ねちゃった? 可愛いんだから」
「いいから名前で呼べ。愛してると言え」
「さっき言ったわ」
「もう一回」
「名前で呼んでくれないのね。ツレナイ人。そしてずるいわ。私がもっと好きになると知ってて」
「好きの臨界点を突破しても、お前の場合愛してるには繋がらないんだろう?」
「よく分かってるじゃないの」彼女は綺麗な笑みを浮かべる。
そうよ、愛し方なんて私知らないの。私無知なの。馬鹿で、阿呆で、白痴になってしまいそう。それもこれも全部、あなたのせいな
のよ。貴方が格好良いから。素敵だから。狂おしいからよ。私彼に嫉妬したのよ。だから貴方との関係が崩れれば思い知ると思
って、利用したかったのよ。彼私を好きだから、きっと誘惑には勝てないと思ったのよ。乗ってくれると思ったのに純愛を持ち込ま
れちゃおしまいよ。貴方にも嫉妬させたかったのに。そしたら私、愛してるって言えると思ったのよ、馬鹿よね
「ああ、言葉も出ない」
「でもね、私不安なの。分かるでしょ?」
分からねえな、そう嘲笑って彼は抱きしめる。
嗚呼、この感じ、永遠みたい。
「俺のが不安だ・・・・・・」
これは愛だろうか。素っ気なくないだろうか。この人は永遠を知っているのか。何故私は、こんなにも心苦しいのだろうか。
「ねえ、苦しいわ。離して。胸が焼かれてしまいそうよ」
「焼かれろ。そして死ね」
「嗚呼、最後まで無愛想」
「俺が殺してやるよ。お前は一生俺のものになる」
「いいわ・・・・・・貴方になら」
口づけでは終われないわ。私はロマンスとは縁がないから。でも貴方の為なら、大嫌いなロマンスも愛せるわ。
「ユウ、愛してる」
彼女がそう口にしたのを果たして聞いた人がいるのか。
END