ここは、ヴァチカン直属の軍事機関・"黒の教団"に完備された鍛錬場である。
	そして、そこに1人座禅するのは、教団に所属するエクソシスト・神田ユウ。
	彼は冷徹な性格から、特に探索部隊にいい見方をされていないことでもっぱ
	らの評判で、また、同じくエクソシストであるに気がある、
	とも評判だ。
	は神田とは全く違い、心優しい性格を持ち、美しいものを愛し、人を
	労わる気持ちが強い、"第2のリナリー嬢"と評価が高く、教団内でも人気を誇
	る絶世の美女である。
	そんなが、冷徹な神田の手に渡ることを阻止しようと、"黒の教団"の
	団員は目を光らせている…という噂もあるが、神田にとってはどうでもよい
	こと。ただ、自分の性格が為、告白することも、二人きりになることも、勇気が
	出せず、気恥ずかしく、することができないのだ。
	そんな、頭を悩ます"純情"エクソシスト・神田ユウは、鍛錬中だ。しん、と静ま
	り返った鍛錬場の隅で1人、座禅して心身を落ち着けていた。
	任務帰りにもかかわらず、そうして努力を重ねることが、彼の強さの秘訣だと
	いえよう。
	さて、そこに、噂の絶世の美女、が現れた。彼女は気配をさっと消し、
	神田の背後に近づいていく。そして、彼の肩に手を置いた。
	神田はとっさに竹刀を構える。が、その相手を見た瞬間、ギョッとして、そのま
	まピタリ、と固まった。
	はにこりと微笑む。
	「任務お疲れ様。お茶もってきたよ。」
	はそっと彼の隣へ腰掛け、お茶を注ぎ、差し出す。
	「…ああ。」
	神田はそれを手に取り、そっと啜る。の淹れるお茶はいつでも美味し
	いと、誰かが言っていた気がした。でも、本当に美味しい。
	こんな奴が、俺の彼女になったら…って、何考えているんだーーーーっ!
	神田は1人、脳内で暴走していると、はきょとんとして、どうしたの?と
	首をかしげる。それがなぜか可愛らしく思え、彼はかっと顔を赤らめる。
	そうだ、そもそも今、俺とのふたりきりなのだ。
	今なら告白も、落ち着いてできるかもしれない。でも、やはり勇気が出ない。
	どうしてこんなときばかり躊躇う?
	俺は普段からこんな性格ではなかっただろう…?
	やはり、俺はこいつに"恋"をしているんだ。だから勇気が出ない。いつもと全然
	変わってしまう。俺は、いつのまにかこんなにもこいつを愛していたのか…。
	神田はごくりと唾を飲む。は相変わらずこちらを見つめている。その
	純粋で真っ直ぐな瞳は、確りと神田を捕らえている。その瞳から、神田は目を逸
	らせた。
	こんなの、自分らしくない。俺はただ、あの人を…
	いや、これは自分らしい、らしくないの問題ではない。
	"好きか、好きではないか"の問題だ。
	もう一度、神田は彼女に焦点をあわせる。
	心臓が高鳴る。うるさい、鳴り止めと神田は落ち着こうとする。
	しかし、やはり勇気が出ず、神田はため息をついた。どうしてこんなときばかり、
	意気地なしなんだ…。
	「じゃあ、私、もうすぐ任務だから。またね。」
	はポットや湯飲みを持って駆けていった。神田は気が抜けてずるりと
	下の段に落ちてしまった。
	しかし、神田の決心は固まった。


	次こそは言うんだ 愛してるって言うんだ