神田と彼女が出会ったのは、神田が15歳、彼女が26歳の時だった。
















恋敵、早めに老けろ。














入団したのは、彼女の方が1年ほど早かった。
それまで、様々な任務の兼ね合いで、神田は彼女をよくは知らなかった。
ただ、とても優秀なエクソシストだとは聞いている。
そして、かなりの美人だと。

今回、神田はと出会った。
長い髪は茶色だった。
瞳の色は黒。
少しだけ違和感はあったが、誰もそれに文句は言わなかった。

それだけの美人だったからだ。

しかし。
それは見た目だけ。

「ねぇ、コムイ君」

彼女は室長になったばかりのコムイをそう呼んだ。
コムイもそれを許していた。
むしろ、頭が上がらないような雰囲気だった。

「私がこの子と任務に出るの?」

、貴方の我侭は聞きません」

「はぁ?本気?」

「本気ですよ〜、彼は神田ユウ君!立派なエクソシストです。ねぇ、神田君!」

コムイは神田に話を振った。
突然振られた神田は、焦る。
このという女。
噂で聞いていたのとは少し違う。
噂では、絶世の美女で優秀なエクソシストだったはず。

性格までは聞かなかった。

「まだ子供じゃない!リナリーと一緒に行けばいいわ!」

「僕のリナリーを馬鹿にしないでください〜!!」

「うっさいわね!!このシスコン!!」

はコムイを一発殴った。
かなりの力強さ。
神田は、引いた。

この女、ヤバイ。

命の危機を久しぶりに感じた。
こんな女と一緒に任務に出たら、生きて帰れない。
そんな気がしたのだ。

「とにかく!一緒に任務に出てくださいねッ!!」

涙目で、コムイは叫ぶのだった。















それが彼女の本名。
教団の誰もが知っていた。
エクソシストとしては優秀で、負け知らず。
でも、性格は高飛車で我侭。
何と言っても、態度が図々しくて、人を敬うことなどなかった。
そんな彼女はほとんどが単独行動。
捜索部隊もつけずに、任務に出ることもあった。
彼女は本当に型破りなのである。

そんなが、ついに神田と任務に出る日が来た。
神田は朝からイライラしている。
あんな女と一緒に任務なのだから、不安だったり、イライラを感じても仕方はないだろう。
六幻を握って、部屋を出た。
そして、教団を出てすぐに後悔した。

「神田、アンタ幾つ?」

「15……」

「15!?老けてるわねー」

平気で彼女はそう言った。
神田を馬鹿にしているのか、ただ素なのか。
素なのだろう、と神田は思うが、頭は痛い。
すでに、後悔の渦だった。

移動手段は列車と徒歩。
列車に乗り込んで、神田はの向かい側に座った。
組んだ足は、スラリと伸びて綺麗だ。
頬杖をつく指も腕も綺麗だった。

「ティエドール元帥の弟子でしょ?」

「ああ」

「アンタね、年上の女性にはもっとしっかりした口調で話しなさいよ」

自分のことは棚にあげて、彼女は言う。
何でこんな女に!と神田は大声を出したかった。
しかし、確かに彼女は年上で、先輩のエクソシストだ。
下手に揉め事を起こしても、いいことはない。

「あのオッサン、元気なの?」

「知らん。もう別れて随分経つからな」

「アンタね、自分の師匠は大切にしなさいよ!」

急には真剣な表情になって言った。

「元帥達はね、イノセンスを探しながら弟子を育ててくださったのよ!その大変さが分からないの!?」

「何だ、急に………」

「アンタみたいに中途半端にエクソシストしてる子供は、すぐに死ぬわよ!!」

その電車での一件以来、は神田と口を聞かなくなった。
2人は正反対。
そんな感じがしていた。
神田は、イライラを募らせながら、任務に就く。
AKUMAを倒して、イノセンスを回収した。
ふと、今まで無視していたを見た。
彼女のイノセンスは、斬るのではなく突いていた。
まさにフェンシングの格好である。
神田と同じくAKUMAの間合いに入らねばならない、難しい戦い方だった。
だが、彼女の美しさはその中にもあった。

次々にAKUMAを倒していく、
神田はその姿に見入った。

「ちょっと、そこのお馬鹿な青少年!いつまでも見てないで戦いなさいよ!」

そう言われて、神田はやっと六幻を握り直した。

やがて、AKUMAは全て倒された。
の手の中には回収されたイノセンスがある。
彼女は満足そうに微笑んでいた。

「神田、帰るわよ」

「あ、ああ……」

「少しは見直したわ。アンタ、弱くない」

初めて認められたその快感は、初恋と同じだった。





それ以来、神田とは一緒にいても喧嘩をするような仲にはならなかった。
特に何も言わないが、落ち着いた関係。
そう見えていた。

「神田君、のこと好きでしょ?」

教団の日常で、コムイはそんなことを聞いてきた。
真正面からだった。
神田の顔が一瞬で真っ赤に染まる。
周りには人もいて、食堂の真ん中だった。

「でも、厳しいよ〜、は」

「か、勝手なことばかり言いやがって!」

「そろそろ分かるんじゃないかな〜」

コムイが、ドアの方を見る。
そちらの方は、急に人だかりが引き下がり始めていた。
中央に、道を作っている。
何事かと見れば、ソカロ元帥が帰ってきたのだ。
元死刑囚。
偶然適合者だと分かり、入団。
もちろん、彼の刑は無効になった。
かなり強力なイノセンスを持ち、その性格も凄まじかった。
人は寄らないし、弟子もなかなか出来ない。
泣く泣く弟子になる者もいたが、やはり長続きしないという。

「元帥!!お帰りなさい!!」

恐怖の存在とも言えるソカロには気軽な様子で話しかけていた。
誰もが驚いている。
は何も気にしていなかった。

「途中で道に迷ったんじゃないかって、心配してたんですよ?」

「そんなわけねぇだろうが」

「食事しながら、土産話してください!」


彼女は、ソカロの弟子の中で唯一の女性。
そして、最も彼に懐いている弟子でもあった。

「あれ、神田君の恋敵」

「はぁ!?」

「殺しても死なないような男」

コムイは笑って言った。
仮面を被ったソカロに笑顔で話しかける
それを気にしないソカロ。

遠くで見つめる神田。

殺そうにも、殺せない。
だから。



ソカロが早く老けることを願うだけ―――――――





















おまけ

ソカロ:「お前、気になる男が出来たんだろ?」

:「ああ、それはもう!若くていい男ですよ、元帥!」

ソカロ:「強いか?」

:「かなり!いい腕してるんですよねー!」

ソカロ:「じゃあ、まずは俺が殺ってみねぇとな」

:(神田なら殺しても死なないだろうけどなぁ……)

















END

2009.07.23