拝啓 神田ユウ様

 お変わりありませんか? 朱音は毎日家のものから「煩い」と言われるほど元気にしております。

 貴方が旅立たれてからもう何年過ぎましたか、私は正確にその日数を数えておりますが、口にすると泣きそうになるので止めておきますね。

 朱音は、貴方が旅立たれた時からずっとお手紙を書き続けておりますが、貴方からは一度もお手紙を返して戴いたことがないので無事届いているか心配でもあります。
 もう日本語は読めなくなってしまっていますか? そちらのお国の言葉に馴染んでしまわれたのなら、とっても残念です。なにせ、朱音は日本語というのはこの世で一番美しい響きを持つ言葉だと信じているからです。
 それに、貴方の国ではきっと日本語を読み書きできる方なんていらっしゃらないと思うので、貴方への思いを躊躇することなく口にできますから。
 でも、私は一介の商人の娘ですから、外国に行くお金なんてありません。貴方への手紙を出すのに使うお金も物凄い額ですから。

 さて、朱音が貴方に会いに行けなくて泣いてしまいそうなのを横目に、 は貴方と同じ仕事に就くというのです。
 なんでも、赤毛の方(お名前は忘れてしまいましたが、とても素敵な小父様)に「俺と一緒に来い」だなんて口説かれたのだとか。
 よくよく話を聞いてみると、悪魔祓師になるんだとか。あの内向ながです。悪魔祓いなんて職業聞いたことはありませんが、危ないに決まっています。
「出来る筈がない」と言ってやると、あの小父様は「にしか出来ない仕事だ」と仰るのでさらに驚きです。
「外国だなんて不便なだけよ」と言ってやりますと、「日本人の奴もいる」と小父様は口にするのです。
「たしか、神田とかいったな」と仰ったらは迷わずに「そのお仕事、やります」と言い出すのです。それまでは渋渋といった感じでしたのに。現金な女です。
はもうすぐ貴方の所に行ってしまいます。朱音だけ置いて行くなんて、貴方もも酷い人。
 貴方、は平凡な男と此方で夫婦となっていました。ですからが貴方を思い続けているからと言っても心動かされぬように。努々お忘れなきよう。
は、貴方以外の人に初物を捧げているのですからね。子供はいなかったにしても、もう、嫁には行けない身体なのです。

 は、莫迦な女です。朱音がに貴方のご住所、態と教えていないのを知っていながら朱音に親切な態度をとるんです。
 貴方にはのように、内気な女ではなく、朱音のように晴れやかな女がお似合いです。たとえ朱音でなくっても、それは一向に構いませんが、華やかな方をお嫁に頂いて下さいね。絶対に、は駄目です。それだけはお願い致します。
 朱音の最初で最後の貴方へのお願いです、どうぞお聞き入れになって。

 恋文と、の陰口のような文になってしまいましたが、決してそうではありません。
朱音は、それはをあまり好いてはいませんが、それほど嫌っているというわけでもありませんから。
朱音は、貴方が朱音を振り向いて下さるまで待っているとお約束いたします。

 きっと、これが最後のお手紙になります。
朱音は今書いたように、貴方に振り向いて頂けるまで待っているつもりでしたが、もう18では嫁の貰い手も危ないからと、来月婚姻させられます。
 ですが心だけは、貴方を思い続けるつもりです。

 貴方、お体にお気をつけて。朱音が貴方の無事を毎日祈っているということをお忘れなきように。長生きしてくださいね。

かしこ

三門朱音


 もう遥か昔の友人の手紙を読み終えて引き出しに仕舞う。もうあいつからの手紙は来ないのか。ずっと溜まり続けた手紙で引き出しは一杯になっている。
 返事は一度も出したことはない。面倒くさいから、というだけじゃなく出してはいけないと思っていた。

が、来るのか。
先ほどのコムイからの食堂への全員呼び出しは馬鹿げた遊びではなく、の紹介か。

 ―――行くか。

 コートを羽織って部屋を出る。食堂はきっと騒がしいだろう。早く行かないと余計な虫がについてしまう。
美人で内気なは絶対に今困っているだろう。慣れない英語にも苦労していると思う。
を此処まで連れてきたのが女たらしの元帥だと思うと苛立たしいが、今はに会いたい。

 手紙の内容なんて信じない。気にしない。

 あの角を曲がれば食堂だ。

 案の定煩い。

 

 ああ、あそこに行けば、やっと恋焦がれていた彼女にあえる。

 

 

 

 

 

2009.09.21 It doesn't believe.  Betrayal And Abhorrence ARCHIVE  Reina AYASAKI writen

For  「I want to meet you.」

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